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『待兼山文学 第二号』より「ホチキスの針」を読んでー加虐と自虐の一体性ー
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例えば、クレヨンしんちゃんのネネちゃんやそのママならば、うさぎの人形を殴る。僕ならばキンキンに冷えた発泡酒を一気に半分くらいあおり、残りはちびちびと飲む。誰にでもストレス解消の方法というのはあるものだ。
この作品の主人公が行うストレス解消法は「ホチキスを空打ちすること」である。女子高生に自転車でぶつかられたらホチキスを打ち、パート先で嫌な客がいたらまた打ち、広がって歩く中学生に、レジでポイントカードが探せない人に、何か気に食わないことがある度にパチンパチンと鳴らし続ける。
この行為が十余年も続いているというのだからまた驚きである。そのホチキスは12歳のときに友達のかなえちゃんちがやっている文房具屋で買ったものだが、そこで初めてホチキスを空打ちしたときの描写が印象深い。以下、その部分を引用する。
あの指をあれで挟んだら、血が出たりするのかな、やっぱり。想像していると無性に、指の付け根が疼いた。人の指なんて太すぎて、針、入らない気がする。(中略)私はそれを握り、かなえちゃんの中指に向けた。ぱちん。(「ホチキスの針」pp.11)
主人公は、かなえちゃんを意識しながら針を打つ。このとき、少しばかりかなえちゃんにイライラする事情があったからなのだが、問題は、針を打つことによってどのような感情を彼女が解決しているのかということである。
彼女は、加虐衝動ないしは破壊衝動とでも呼べるものをホチキスの空打ちでなんとか堪えている。イライラを引き起こす人を思い浮かべながら、それに向かってホチキスを打ち込んでいく感覚、それによって、本当に人を傷つけずに済む。
さて、ここで最も興味深いのは、この加虐衝動と表裏一体のものとして、自虐衝動が見え隠れしているということだ。だから、12歳の主人公は「想像していると無性に、指の付け根が疼」く感覚を持つのだ。
そのことは、この作品の終末にもキチンと描かれている。グラスもきちんと洗えない、いつも夜遅くにしか帰ってこない夫の味噌汁にホチキスを放つ。そして主人公はその味噌汁を、もちろん針もろとも、全て飲み込んでしまう。ここに加虐と自虐の統合を認めるべきではないだろうか?
自虐というのが加虐の対象表現として適当でないというのならば、「自傷」と言い換えてもいい。自傷行為――例えばリストカットをする少女は自分の身体を傷つけるためにのみその行為を繰り返すのだろうか? 無論、そうではない。その傷跡をチラリと見せたり、仰々しく包帯や絆創膏で隠すことが表層的/深層的とにかかわらず意識されているのではないだろうか?
●参考
河上真冬「ホチキスの針」『待兼山文学 第二号』pp.7~14,待兼山文学会
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