忍者ブログ

無間書房

血潮吹く感傷と100万回死ぬ言葉。 無間書房は、火の国熊本発の文芸同人サークルです。

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

最近読んだ本

初めまして、香川ゆとりと申します。うどんが好きだから香川、という単純な理由でペンネームをつけました。ちなみにトッピングは海老フライが好きです。以後お見知りおきを。

 さて、私は大学において欧米文学を学んでいます。ドイツ文学が専門ということで、卒業までにはゲーテ、シラー、カフカ、トーマス・マンといった名だたる文豪たちに挑まなければなりません。とりあえずはゲーテかなという至極安直な思いつきからゲーテの作品を何作か拝読しました。『若きウェルテルの悩み』、『ヴィルヘルム・マイスターの遍歴時代』そしてドイツ文学最大の傑作と言われる『ファウスト』。今回はその『ファウスト』に対する感想を少し綴らせていただこうかと思います。

 『ファウスト』は、ドイツを中心として広まったファウスト博士の伝説をモチーフとしています。悪魔と契約し、その代償として悲惨な死を遂げたと噂された彼の物語は多くの作家によって書かれました。イギリスのマーロウを初めとして、ドイツではレッシング、ハイネ、トーマス・マンなどが好んでこの題材に挑戦しています。中でもゲーテの『ファウスト』は、その質、量、共に圧巻です。因みに、この作品に影響を受けた人は多く、日本では手塚治虫が大の『ファウスト』ファンであったと知られています。

 『ファウスト』を読むに当たって、ギリシャ・ローマ神話、及びキリスト教に関してわずかながら見聞があったのが幸いしたと感じます。というのも、この作品が“ユーモアの達人”ゲーテの書いた戯曲である以上、言葉の隅々に思わずクスッと笑ってしまうような、いわゆる「ネタ」が仕込んであるわけです。『ファウスト』の登場人物達は、「ここはこうだから面白い!」なんて無粋な説明は一切しません。観客の、引いては読み手の知識に委ねられているのです。もちろんそんな知識がなくとも純粋にストーリーだけを楽しむことはできるのですが、相当うまい訳者のものを読まない限りは、最後まで気力が持たないでしょう。何より、ゲーテが散らした言葉の花々を踏んづけて通ってしまうのは途轍もなく惜しいことです。

 「知」とは何か、「生きる」とは何か、「愛」とは何か……『ファウスト』には人々が改めて自分自身に対して問うべき様々なテーマが渦巻いています。実際、登場人物達の言葉は時代も国境も超えて、何度も何度も私の胸を深く刺してきました。その壮大すぎる物語に辟易してしまうこともあるかもしれませんが、ぜひ一度、多くの人にじっくりと『ファウスト』を読んでほしいと思います。
PR